非上場株式の評価は、まず会社の規模区分を決め、そのうえで類似業種比準方式と純資産価額方式の2つの算式に当てはめて進めます。どちらの算式も、入力は決算書、法人税申告書、固定資産台帳といった記録から取れるので、記録を先にそろえておくと計算が早く終わります。
国税庁のタックスアンサーNo.4638(令和8年4月1日現在法令等)が説明するこの評価は、相続税と贈与税の対象です。会社を譲るときの価格は、後述する中小M&Aガイドラインの手法をもとに、当事者の合意で決まります。
非上場株式はどのように評価されますか?
評価方式は、株式を取得する人が同族株主等かどうかで分かれます。同族株主等は原則的評価方式、それ以外の株主は配当還元方式(1年間の配当金額を10パーセントで還元する方法)で評価します。
原則的評価方式では、会社を総資産価額(帳簿価額)、従業員数、取引金額で大会社・中会社・小会社に分けます。従業員数が70人以上の会社は大会社です。区分ごとの評価方式は次のとおりです(財産評価基本通達178、179)。
- 大会社は類似業種比準方式で評価します。選択により純資産価額方式も使えます。
- 小会社は純資産価額方式で評価します。選択により、Lを0.50とする併用方式も使えます。
- 中会社は2つを併用します。
中会社の算式は次のとおりです。
中会社の株価 = 類似業種比準価額 × L + 1株当たりの純資産価額 × (1 − L)
Lは、総資産価額と従業員数に応じた割合と、取引金額に応じた割合のうち大きい方で、0.90、0.75、0.60の3段階です。
始める前に日本の記録保存期間、事業譲渡の手続き、日本の場合をお読みください。
類似業種比準方式ではどの数字を使いますか?
類似業種比準方式は、類似業種の株価を基に、評価する会社の配当・利益・純資産(帳簿価額)の3つを類似業種と比べて評価する方法です(財産評価基本通達180)。
類似業種比準価額 = A × [ ( b/B + c/C + d/D ) ÷ 3 ] × 0.7
A:類似業種の株価
b、c、d:評価会社の1株当たりの配当金額、利益金額、純資産価額(帳簿価額)
B、C、D:類似業種の1株当たりの配当金額、年利益金額、純資産価額(帳簿価額)
0.7は中会社では0.6、小会社では0.5
類似業種の業種目と株価は国税庁のホームページで確認できます。評価会社側のb、c、dは、財産評価基本通達183が次のように定めています。
- b(配当):直前期末以前2年間の剰余金の配当金額(毎期続くと見込めない特別配当、記念配当を除く)の合計の2分の1を、直前期末の発行済株式数で割ります。
- c(利益):直前期末以前1年間の法人税の課税所得金額(固定資産売却益、保険差益など非経常的な利益を除く)を基に計算し、発行済株式数で割ります。直前期末以前2年間の平均を選ぶこともできます。
- d(純資産):直前期末の資本金等の額と、法人税申告書別表五(一)の差引翌期首現在利益積立金額の差引合計額の合計を、発行済株式数で割ります。
利益の基になるのは法人税の課税所得金額です。決算書の当期純利益と金額が異なることがあるため、法人税申告書の別表四も手元に置きます。
純資産価額方式ではどの数字を使いますか?
純資産価額方式は、会社の資産と負債を相続税の評価に洗い替え、その差額から計算します(財産評価基本通達185)。
1株当たりの純資産価額 =
( 各資産の評価額の合計 − 負債の合計 − 評価差額に対する法人税額等に相当する金額 ) ÷ 課税時期の発行済株式数
記録との関係で押さえる点は3つあります。
- 課税時期前3年以内に取得または新築した土地等と家屋等は、課税時期の通常の取引価額で評価します。帳簿価額が通常の取引価額に相当すると認められる場合は、帳簿価額を使えます。固定資産台帳の取得年月日で、この3年に当たる資産を先に選び出せます。
- 負債のうち、貸倒引当金や退職給与引当金などの引当金と準備金は含まれません。課税時期で未払いの法人税・消費税・事業税・住民税のうち、事業年度の開始から課税時期までに対応する金額と、未払いの固定資産税は含まれます(財産評価基本通達185、186)。
- 発行済株式数には、課税時期の株式数を使います。直前期末の株式数とは別の数字です。
自社にはどの評価方式が当てはまりますか?
次の順に確認すると、あなたの会社に当てはまる方式を絞れます。
- 株式を取得する人が同族株主等か確認します。それ以外の株主なら、会社の規模にかかわらず配当還元方式です。
- 従業員数を数えます。週の労働時間が30時間未満の従業員を除き、1年間継続して勤務した人数に、それ以外の従業員の年間労働時間の合計を1,800時間で割った数を足します。70人以上なら大会社です。
- 70人未満なら、総資産価額(帳簿価額)、従業員数、取引金額(直前期末以前1年間の事業に係る収入金額)を通達178の表に当てはめ、大会社・中会社・小会社を決めます。業種が卸売業、小売・サービス業、それ以外のどれかは、取引金額が最も多い業種で判定します。
- 特定の評価会社に当たらないか確認します。比準要素数1の会社、株式等保有特定会社、土地保有特定会社、開業後3年未満の会社等、開業前または休業中の会社、清算中の会社が該当し、原則として純資産価額方式(清算中の会社は清算分配見込額)で評価します。
承継の準備全体の進め方は、事業承継で会社の記録はどこまで引き継げるかと事業承継チェックリストにまとめています。
会社を譲るとき、買い手はどの方法で価値を見ますか?
中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版、令和6年8月)は、簿価純資産法、時価純資産法、類似会社比較法(マルチプル法)で算定した金額を基に、譲渡額を交渉するケースが多いと説明しています。事例ごとに適切な方法が異なるため、支援機関に相談して選ぶことが望ましいとされています。
- 簿価純資産法:貸借対照表の純資産を株式価値とします。
- 時価純資産法:資産と負債を時価で評価し、保険の解約返戻金や退職給付債務などの簿外資産・負債も時価評価した純資産を株式価値とします。棚卸資産は実在性や評価の妥当性を検証して評価します。不動産や有価証券だけを時価評価する修正簿価純資産法も多く使われます。
- 類似会社比較法(EV/EBITDA倍率法):参考資料2は次の算式を示しています。
株式価値 = EBITDA × EV/EBITDA倍率 − 純有利子負債(有利子負債 − 現預金)
EBITDAは「営業利益+減価償却費」で簡易に求める例が多いと、参考資料2に書かれています。簿価純資産法または時価純資産法の金額に数年分(通常1年から3年)の利益を加える場合もあり、最終の譲渡額は当事者が合意した金額です。
M&Aで数字を確かめるときに手元にあると話が早いのは、総勘定元帳、固定資産台帳、在庫の記録です。小規模なM&Aの記録の整え方は、スモールM&Aに向けた記録の準備で説明しています。
評価に使う記録はどこから集めますか?
算式の入力ごとに、どの記録を開けばよいかを整理します。
| 入力 | 開く記録 | 使う方式 |
|---|---|---|
| 配当金額(b) | 直前2期の株主資本等変動計算書、総勘定元帳の配当の記録 | 類似業種比準 |
| 利益金額(c) | 法人税申告書の別表四、総勘定元帳(固定資産売却益や保険差益の特定) | 類似業種比準 |
| 純資産価額・帳簿(d) | 法人税申告書の別表五(一)、決算書の貸借対照表 | 類似業種比準 |
| 従業員数・取引金額 | 勤務時間の記録、売上の総勘定元帳 | 規模区分 |
| 土地・建物の評価 | 固定資産台帳(取得年月日、帳簿価額) | 純資産価額 |
| 在庫・保険・退職金の簿外分 | 棚卸の記録、保険証券、退職給付の資料 | 純資産価額、時価純資産法 |
| 負債 | 決算書の負債の部、未払税金の明細 | 純資産価額 |
| 営業利益と減価償却費 | 総勘定元帳、固定資産台帳の償却額 | EV/EBITDA |
| 有利子負債と現預金 | 借入金の明細、預金残高 | EV/EBITDA |
税理士に評価を依頼する場合も、この表の記録を一式渡せるようにしておくと、確認の往復が減ります。
非上場株式の評価方法は見直されますか?
国税庁は令和8年4月16日に、取引相場のない株式の評価に関する有識者会議の開催を公表しました。会計検査院が令和6年11月の検査報告で、評価方式の間の評価額のかい離を指摘したことが背景です。令和8年8月20日の第5回会議では、規模に応じた評価体系の廃止と評価方式の一本化、インカムアプローチの一つである残余利益方式の導入などを内容とする見直しの骨子が示されています。
骨子には、見直しの内容のほか評価水準や税負担のあり方も含め、最終的には税制改正プロセスで決定すると書かれています。同じ骨子は、残余利益方式の計算に必要なものを基本的に直前期末の貸借対照表と過去数年分の損益計算書等としています。どちらの方式になっても、決算書と申告書を年度ごとにそろえておく作業は変わりません。
次の一歩
決算書、総勘定元帳、固定資産台帳、勤務時間の記録のうち、どれがどの形で残っているかを書き出すと、評価の入力がそろうかどうかが分かります。会社の記録の整理と引継ぎの状況は、記録の適性診断で確認できます。ほかの引継ぎの手順はガイド一覧にあります。
出典:国税庁タックスアンサーNo.4638、財産評価基本通達178〜189、取引相場のない株式の評価に関する有識者会議資料、中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」と参考資料2(2026年10月12日確認)。